鏡よ、鏡この世で一番…

自作の小説の溜まり場

ブラッククリスマス

こんな噺を聞いたことはありませんか。

  クリスマスには、サンタさんが来ます。

 

ですが、悪い子はブラックサンタさんが来て氷河に捨てられます。

 

クリスマス以降にその子を見た人はだれもいませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは僕の地域に伝えられている伝承だけれど、正直嘘くさいと僕はおもう。

こんなの大人にとって都合のいい子供にするための脅しだ。

 

子どもを馬鹿にしている大人たちに対してフンっと鼻で笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またクリスマス、か。

一年でもっとも憂鬱な時期が近づいてきて思わず溜め息が出る。


我が家の一人息子であるルドルフは、どこかひねくれた子供でサンタというのを信じないし年々ごまかすのも難しくなってきている。

さらに困っているのはサンタを信じないのは別にいいが、最近のルドルフはちっともいうことをきかない。

学校もサボって悪友たちと近所の子供たちをいじめている。

 

無駄遣いも増えた。

いつも月末には追加のお小遣いをくれというらしい。

 

ダメだといっても聞かない。

妻は、毎回そのやり取りに辟易していると愚痴をこぼす。

どうしたらいいものか、とまた溜め息が漏れた。

 

すると、プルルルルと黒電話が鳴り始めた。

仕方なく電話に出たが、知らない男が『ブラックサンタになりますか?なりませんか?』といった。

ハスキーボイスが相まってあまりにも不気味だったから思わず電話を切ろうとしたら、男は『あなたのところのルドルフ君は最近やんちゃが過ぎますね』といった。

『なぜ、知っている?』と不気味な男に問いかける。


男はクククと笑いながら、『良い返事を楽しみにしていますね』とだけいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


いつもは厳格なグルントシューレもクリスマスシーズンはどいつもこいつも浮き足立っている。

僕のクラスも例に漏れず教室にクリスマスツリーを飾り付けていた。

先生がクリスマスツリーを綺麗に飾り付けたら、プレゼントをくれるらしい。


馬鹿馬鹿しい。

そんなもので子どもを騙せると思ってるなんて、先生は馬鹿だ。

 

そんなことを考えていたが、どうやらそれは僕だけみたいだ。

ほかのヤツらは、目をキラキラ輝かせてツリーをオーナメントで飾り付けている。


クラス一のお調子者のアルベルトがみんなに『競争しようぜ!』とニカッとした笑顔でいったら、もうお祭りムードだ。

 

 

僕は、こういう空気が大嫌だ。


すると、一人でぽつんとしている僕を見かねたアルベルトが『なぁ、ルドルフもやろーぜー』とクリスマスのオーナメントを渡そうとしてきた。

 

もう我慢の限界だ。


僕は手渡されたジンジャークッキーのオーナメントを払い落とした。


クラスが静まり返った。

アルベルトも困った顔をしている。


そんな空気にかまわず『クリスマスなんかに浮かれて馬鹿みてぇ』と吐き捨てた。


だれも僕の言葉を分かってくれなかったからイライラして、ツリーを思いっきり蹴った。

ツリーは勢いよく倒れてせっかくの飾り付けも台無しになっただろう。ざまあみろ。

 


 

 

 

 

 


最悪だった。

よりによって先生が帰ってきて、この状況の説明をする羽目になり僕は一時間ずっと怒られた。

反省の色がない僕をみて先生はあろうことかママに連絡しやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事から帰ってきたら、また妻は僕にルドルフの悪行を溜め息混じりに報告してきた。

しかも、学校でやらかしたらしい。

 

いままでは近所の悪童と群れてるだけだったから見て見ぬふりをしていた。

 

それがいけなかったんだ。

 

夕ご飯前にルドルフをリビングに呼んでなぜこんなことをしたか聞いた。

そうしたら、不貞腐れながら『馬鹿みてぇだと思ったから』といった。

思わず『なんてことをいうんだ!』と大声で怒鳴った。

 

火に油を注いだらしくルドルフも『うるせえ!クソジジイ!』とキレた。

久しぶりに喧嘩をした。

だが、怒りおさまらずにルドルフは部屋にもどり、夕ご飯は冷めきっていた。

 

僕はルドルフを甘やかし過ぎていたようだ。

あの男に電話をかけて、ブラックサンタになることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

   


クソ、親父ムカつく!

普段仕事で帰るの遅いくせに父親ズラしやがって。

イライラして枕を殴った。

ママから『はやく寝なさい!』と怒られた。

 

 

うるせえ、うるせえ!

何で子どもってだけで親の言うこと聞かなきゃならねぇ!?

イライラがおさまらない。

 

今日は12月24日だとルドルフは忘れていた。

 

 

 

 


『本当にやるとは思わなかった』

黒いサンタ服を着たハスキーボイスの男が苦笑した。

 

僕は慣れない黒いサンタ服を着て、ルドルフの部屋の窓をコンコン、と叩いた。

やっぱりルドルフは寝ていない。

 

お前には罰が必要だな、ルドルフ。

 

 

 

 


窓から聞こえる音を不思議そうな顔をして窓を見たら黒いサンタが窓をノックしていた。

僕は訳が分からないまま窓を開けたら、黒いサンタは大きな白い袋をあけて僕を乱暴に入れた。

 

気付いたら氷河まで連れてこられていた。

僕は寒さと恐怖で震えて『なんで、こんなこと、するの…?』と怯えながら聞いたら。

 

突然 黒いサンタは笑いだして『大人を馬鹿にするんじゃねぇよ』といった。

僕は泣きながら『もう二度と悪いことしません!』と命乞いしても、サンタは笑いを止めずに僕を氷河の底まで突き落とした。

 

僕をみた人はだれもいない。

 

僕を心配する人もいるはずがなかった。

 

氷河に突き落とされた僕をみて黒いサンタはにやりと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

ああ、バカ息子に罰を与えられてすっきりした。

ほんとうに、この国の伝承には助けられる。

 

ブラックサンタになっていらない子供を氷河に棄てられるなんて、貧しいこの国にはよくある話だ。

 

さて、寒くなってきたから家に帰るか。

妻もじゃがいも料理とビールで待っているだろう。

 

久しぶりにふたりだけの日々だ。楽しいクリスマスになりそうだ。

 

 

 

さて、皆さんいかがでしたか。

大人を馬鹿にして悪いことばっかりしていると、自分にもかえってきますよという教訓にはなりましたか。

 

その後のルドルフ君を心配する人は誰一人いなくて、むしろすっきりしたと皆さんニコニコご満悦。

 

パパさんとママさんは久しぶりの夫婦生活を楽しんで近いうちにイタリア旅行に行くそうで。

 

みんな、しあわせで良かったですね。

 

めでたしめでたし。

禁じられた遊び

 

 

いつも恒例の女子会は楽しい。

 

けれど、たまに二人の仲の良さを見せつけられて、切なくなるのはなぜだろう。

こないだの女子会は楽しかったはずだ。
なのに、寂しいのはなぜだろう。

…振り返る。

いつもの帰りのバスで友達と放課後遊ぶ約束をしているから手土産のお菓子は何がいいか聞いた。
『お菓子、何がいい?』と私は聞いて有紗は『アイス食べたい。』と返した。

私はスーパーカップのバニラアイスを買ってきて、先に来ていたもう一人の友達である直子が『あれ?私の分はないん?』と聞き返した。

私は慌てて『ごめん、忘れてた!』と謝った。

そうしたら、直子は『まあ、いっか。私と有紗は仲良いから!』と言って屈託ない笑顔で二人でスーパーカップのアイスを同じスプーンで食べていた。

有紗も直子も長年の親友だからかな。


たまに、私の知らない合言葉を使って二人で笑い合っている。

私は、それを見てただ微笑んでいる。

ねえ、私って、ここにいるのかな。

そんな気持ちを隠しながら、なんてことのない時間があっという間に過ぎ去っていく。

じゃあ、またねって手を振りながら私は一人でながいながい帰り道を歩く。

 

もう夕方だったんだ。

夕焼けの空は『今日も頑張ったね。お疲れ様』と優しく慰めてくれている気がする。

アスファルトに咲く蒲公英が『大丈夫だって!』とニカッとした笑顔で励ましてくれている気がする。

夕焼けと蒲公英のほうが有紗と直子よりも、ずっと友達みたい。

 

家に帰ってにゃあにゃあ鳴いている猫にご飯をあげたり、溜まっていた洗濯物を畳みながら、ぼんやりとさっきのことを考える。


こんな上辺だけの友情が欲しかったわけじゃないのにな。


なぜ、仲良いふたりを見ていたら、時折切なくなるのかは分からない。

ただ、私には親友と呼べる友達がいないことだけは分かった。


こんな上辺だけの友情が欲しかったわけじゃないのに、な。

思考が堂々巡りしていく。

噛み合わない理想と現実に苛立ちを覚える。

ふと 、つけっぱなしだったテレビを観たら
夕焼けクインテットが始まっていた。

「夕焼けクインテット」とは、NHPの教育番組でクラシック音楽を人形が演奏しているのだけれど、これがなかなか格調高くて。

テレビをつけるだけでクラシック音楽の演奏を聴けるのだ。

最近 夕方のこの時間に癒されている。

さて、今日のコンサートは何かな。

ふむふむ、今日は「禁じられた遊び」か。

禁じられた遊び」は、たしかスペイン民謡だったかな。
作曲者は不明な謎めいた曲だけど、どこか郷愁感が感じられて聴いていて とても落ち着く。


聴いていたら少し眠たくなってきた。

洗濯物を畳むのをやめて、ゴロンとソファに寝転がった。

微睡みながら懐かしい詩を聴く。


川のそばに きょうも立てば
青い空が ほほえんでいる
青い空は すぎた日々を
みんな 知ってる



川のそばを とおる風は
水の声を 運んでくる
水の声は かえらぬ日を
耳に ささやく

あれは過ぎた 幼い日よ
ふたりだけで 遊んだ日よ
水車だけが まわりながら
それを 見ていた

水は 雲のように流れ
時は かげのようにうつり
思い出だけが いまも深く
胸に とどまる


空はあおく だまっている
雲は遠く 流れていく
行方しれぬ 波のままに
さすらう 少女(おとめ)

水車小屋の 暗いかげで
二人だけの 十字架立て
よろこびに ふるえている
おさなき こころ

やさしかった 名をば呼びて
追えどむなし 霧の面影
引きさかれし 愛の歌を
たれか 歌わん


春はめぐり 花はひらき
鳥はうたう 旅の空を
雲の如く さすらいゆく
あわれ おさなご

十字架たてて 花をかざり
二人きりで 遊んだ日の
忘れられぬ あの思い出
胸に ひそめて

楽しかりし あの日のこと
やさしかりし 母の瞳
今は遠く すべて去りぬ
ゆめの うきぐも



いつか、いまの悩みすらも思い出になるのだろうな。

苦しみも喜びも、ぜんぶ、懐かしく思い出せたら、しあわせな、気がする。

ぼんやりと霧のかかった森のように、今すらもそうなってしまえばいい。

ああ、かんがえごとをしていたらほんとうに寝てしまいそう。

いいや、いまだけ寝かせて。

おやすみ、今日の私。
明日は綺麗な私に生まれ変わっていますように。


そういいながら彼女は深く眠った。

ピロン、ピロンと鳴き続けるスマホにすら気づかずに。

思考停止

ざあざあ、と雨が降ってきた。

 


なぜ、僕はこんな雨の中傘もささずに佇んでいるのか疑問を抱きながら、ふと水面を覗き込んだら。

 


そこに写っていたのは、大嫌いなカエルだった。

 

 

 

なぜ、大嫌いなカエルになっているのか。

 


いくら考えても分からない。

 


考えても考えても分からない。

まるで、思考がだんだん出来なくなっているような。

 


そもそも僕は誰なんだ?

 


ああ、もう分からなくていいか。

 


とりあえず、食べられる虫でも捕まえにいくか。

 


ケロケロケロケロ。

 


ケロケロケロケロケロケロケロケロ。

 


こうして、自分の名前すらも分からなくなってしまった哀れな少年は、カエルとなって生きていくことになりました。

 


皆さんは、よく考えて生きてくださいね。

猫とメリーゴーランド

たまちゃん、お元気にしていますか。

虹の果ての世界は晴れていますか。

 

 

 

そう問いかけても返事はなかった。

 


あたりまえか。

 


たまちゃんのお墓に向かって話しかけても、しかたないって分かっていない。

 


そんな自分にどうしようもないやるせなさをおぼえた。

 

 

 

 

 

 

たまちゃんのお墓参りを済ませたし、そろそろ帰ろう。

ここにいると、なんだか憂うつになってくる。

 


たまちゃんが戻ってくれそうな気がしてしまうから。

 

 

 

 


そんなことを考えながら、たまちゃんのお墓に向かって手を合わせる。

 

 

 

 

 

 

そこまでは、いつも通りだった。

 

 

 

手を合わせたら、にゃあ  と聞こえた。

 


どこか懐かしくて柔らかいこの声は。

 

 

 

たまちゃんの声だ。

 


たまちゃん。

 

 

 

ずっと待っていたよ。

どこにいっていたの。

 

 

 

 


たまちゃんを撫でようとしたら、たまちゃんはふいっと避けた。

 


たまちゃん、どこにいくの?

 

 

 

逃げていくたまちゃんを追いかけていたら、そこには古いメリーゴーランドがあった。

 


たまちゃんはなんてことないようにひょいっとメリーゴーランドに乗った。

 


私もたまちゃんと一緒にメリーゴーランドに乗った。

 


たまちゃん、やっと会えたね。

 


たまちゃんは、 私の手をぺろぺろ舐めた。

 


私はたまちゃんの気が済むまで舐めさせた。

 


たまちゃんの柔らかくて温かいまっしろな毛並み。

 


ねぇ、たまちゃん。

 


そういって私は、たまちゃんに渡すはずだった赤い首輪をたまちゃんにつけようとしたら。

 

 

 

たまちゃんは、雪のようにぱらぱらと溶けた。

 


たまちゃんは溶けながらも優しく笑っていた。

 


私は、溶けゆくたまちゃんを撫で続けた。

 


たまちゃんは、私の手をぺろっと舐めてくれた。

 

 

 

いかないで、なんていえない。

 


代わりにまたここで会おうね。

 


そういってたまちゃんに赤い首輪をつけた。

 


ひらひらとたまちゃんは溶けていく。

 


手元には雪がかかった桜の花びらが残されていた。

どうか、小説家気分に浸らせてください。

《女なんだから化粧しろ。

 


女の子だからピンクにしようね。

 


女なんだから、ちょっとはおしゃれしろよ。

 


うるさい、うるさい。

 


灰色の言葉の羅列がうるさくてしかたない。》

 

 

 

 


遮光カーテンで締め切った

散らかった部屋で誰に届けることもなく文章を書きなぐる。

 


パソコンに向かって自分のきもちをできるだけ綺麗に書き連ねる。

 


手元にはアフタヌーンティーで購入したアールグレイを淹れたティーカップで優美で潤沢な時間を愉しんでいる。

 


こうしていると、偉大なる大作家になったような心地になれる。

 

 

 

 


どたどた、と足音が騒がしい。

 


一気に興ざめした。

せっかく、執筆活動に専念していたのに。

 


その足音の主が乱暴にドアを開けた。

 


『よう、相変わらず、汚ねぇ部屋だなぁ』といって汚らしい足で私の原稿を踏み荒らす。

 


『ちょっと!それ原稿』と私は怒鳴る。

 


男は悪びれもなく『は?こんな誰にも読まれないのが「原稿」かよ』と嘲笑う。

 


私は恥ずかしくて言い返せない。

 


男はため息をついた。

 


『あのな。お前は小説家になったつもりなんだろうが、世間からしたらただのフリーターなんだよ』といった。

 


私は何も言い返せなかった。

 


彼は出版社勤務の編集者で結婚もしている。

もうすぐ奥さんにも子どもが生まれる予定だ。

 


そんな人生がうまくいっている人に私のじめじめとしたきもちなんて分からないし、分かられたくもない。

 

 

 

『お前さぁ、ほんとに小説家になりたいわけ?』と、黙ったままの私に追い打ちをかけるようにいう。

 

 

 

分からない。

 


作家になりたいはずなのに、あと一歩が踏み出せない。

 


周りの友達は私の作品を読んで褒めてくれたり、ときには涙を流したりしている。

 


そのたびに『小説家になりなよ!ファン第1号になるから!』っていってくれて嬉しかった。

 


この男にだって、そんなふうにべた褒めされては『今、新人賞やってるから応募してみろよ』って新人賞のページ見ながらいわれたりもした。

 


何度褒められても期待されても私は動けない。

 


いや、動かない。

 

 

 

 


また黙り込む私をみて、『まあ別に小説家になる奴なんて限られてるよな』といってテーブルに置いていたスコーンを貪った。

 


スコーンを食べるだけ食べて男は座布団から立ち上がって帰っていった。

 


手元をよく見たら新人賞の応募チラシを持っていた。

 

 

 

 


私って、なんで小説書いてるんだろう。

 


小説家になりたいから?

 


ちがう。

 

 

 

小説家みたいになりたいから?

 


うーん、近からずも遠からず。

 

 

 

もしかしたら、小説家気分に浸りたいのかな。

 


だから、小説を書くだけ書いて世間には公表しない。

 


公表するとしても、仲の良い友達だけ。

 


完全に同好会。

あるいは 大学のサークル。

 

 

 

 


自分のきもちに気付いたらちょっと肩の荷がおりた。

 


周りからの期待を裏切ることが少しだけ辛かったけど、私は好きなことを仕事にしたくない。

 


だって、気分なんだから。

 


気分が義務になるのは、ちがうよね。

 

 

 

さて、さっきの続きを書こう。

 

 

 

《女なんだから化粧しろ。

 


女の子だからピンクにしようね。

 


女なんだから、ちょっとはおしゃれしろよ。

 


うるさい、うるさい。

 


灰色の言葉の羅列がうるさくてしかたない。

 


というか、あれこれ否定する前に私の話をまず聞け。

 


まず、化粧は肌荒れが酷くなるからしたくない。

スキンケアはちゃんとしているし、いろいろ求めないでほしい。

 


理由があることも考えてほしい。

 

 

 

昔からピンクより青のほうが好き。

 


青は綺麗な海の色。

 


綺麗な海を見ていると心が洗われる。

 


私は、海の色である青が好き。

 

 

 

おしゃれより、ゲームにお金を使いたい。

 


おしゃれは流行りで変わるし浪費も激しいけど、ゲームはソフトさえあれば物欲も抑えられる。

 


ゲームはゲームの中で物欲が満たされるからソフト代以外は、お金がかからないような気がする。

 


おしゃれより、ゲームが好きでもいいじゃない。

 


ピンクより、青が好きでもいいじゃない。

 


化粧も無理してしなくてもいいじゃない。

 

 

 

世間がどう言おうと私は私なのだから。 》

 


よし、ここまで書けた。

 


ああ もうすぐしたら、夜が明ける。

 


朝になったら仕事人間に変身するので…お願いします、神様、 太宰様、ゲーテ様  、シェイクスピア様、ルイス・キャロル様、芥川様… どうか、まだ小説家気分に浸らせてください。

 

 

 

暑くて開けっ放しにしていたカーテンから朝日が差し込んできた。

 


気付いたらマウスを握り締めながら眠っていた。

 


その姿は本物の小説家のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂愛

 

 

 

 

やっと一緒になれるね…

 


誰も助けに来ない燃え上がる部屋の中で君の遺骨を抱きしめながら僕の意識は灰になって…

 

 

 

僕は君より一個下で僕の猛アプローチの末に君と結ばれた。

 


君は、僕より年上で三十路とは思えないくらい綺麗だった。

 


手入れの行き届いた長い黒髪に縛られるのは僕の特権だ。

 


結婚というのは、契約だろう。

 


僕は君以外見てはいけないし、もちろん君は僕以外を見てはいけない。

 


その契約のもとで僕らは夫婦になったのだろう。

 


君だって、そうだよな。

 


もっとも、君は綺麗だから心配だが。

 

 

 

 


君との結婚生活は、とてもとても穏やかな時間が流れていた。

 


結婚と同時に購入した白亜の家で過ごす君とのなんてことない日常。

 


君が仕事にいっているあいだは僕が家事を担う。

 


中までまっしろな我が家に汚れは似合わない。

 


念入りに綺麗にする。

 


汚れなんてつけさせない。

 


念入りにみがく。

 


我が家に汚れなんて、いらない。

 


さて、次は浴槽の掃除だ。

 


その前に洗面台を綺麗にしないと。

 


洗面台には君の口紅が無造作に散らかっていた。

 

 

 

案外ずぼらなところがあるよね、君は。

 


僕は、ふっと笑いながら君の散らかした口紅を片付ける。

 


片付けていると、メモを見つけた。

怪訝に思いながら、メモを読んだ。

 


それは、君の字じゃなかった。

 


明日の夜7時にホテルに行こう。旦那にはバレないように  と書かれていた。

 

 

 

僕は頭がまっしろになった。

 


それから、ふつふつと怒りがこみあがってきた。

 

 

 

まっしろな我が家に穢れは似合わない。

 

 

 

僕以外の男に身体を許した君を許さない。

 

 

 

 


君は僕だけを見ていたらいい。

 


僕以外の男を見る君なんて、君じゃない。

 


 

 

 

 

 


あれ、おかしいな。

 


昨日  課長…いや修一さんからもらったメモがない。

 


かばんのなかを探しても見つからない。

 


まさか、家に置き忘れた?

 


夫は潔癖症だ。

 


いまごろ 家中を隅々まで掃除をしている。

 


思わず はぁ、と大きな溜息が漏れた。

 


夫のおかげで家は綺麗に保たれているが、あまりにも綺麗過ぎて落ち着かない。

 


部屋なんて、ほどよく散らかっていたほうが落ち着く。

 

 

 

いつしか綺麗過ぎる我が家に帰りたくなくなってきていた頃に我が家と似た境遇の課長とお酒を飲むようになった。

 


課長は奥さんの純粋さに惹かれて結婚したけど、一緒に暮らすうちに純粋過ぎて息苦しくなったらしい。

 


奥さんがあまりに綺麗だから、俺は汚いものだと感じてしまう。

 


だから 家に帰りたくない。

 


課長はお酒を飲みながら、そういった。

 


そんな課長をみて放っておけなかった私は課長を身体で癒すことにこの上ない喜びを感じていた。

 

 

 

そう、私は穢れているの。

 


あなたが思うように綺麗じゃないの。

 


ああ、思い出した。

 


メモは 昨日わざと洗面台に置いたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっしろな我が家が汚された。それも妻によって!

 

 

 

なんで、そんなことをしたのって君に問い詰めたい。

 


けど、そんなことをしたら綺麗な君が泣いてしまう。

 


僕は君の涙に弱いから。

 


今回は君が悪いんだ。

 


罰を用意しているから馬鹿な君は何も知らずに帰ってきてね。

 

 

 

 

 

 

課長との夜を過ごして憂うつになりながらも綺麗な我が家に帰っていく。

 


我が家の前に立つと、まっしろで綺麗だなって感心する反面 こんな汚れたものが足を踏み入れていいの とも思ってしまう。

 


白は純粋さと正しさ。

 


同時に行き過ぎた純粋さは潔癖さにもなるし、行き過ぎた正しさは押しつけがましさにもなる。

 


だから、ほどよく汚れているほうがいい。

 


ほどよく、まちがっているほうが絶対に正しい。

 


そんなことを考えながら扉を開けたら。

 


旦那は、どこか不気味な笑顔で待っていた。

 


『おかえり。今日も遅かったね』と笑う旦那に仄かな殺意を感じ取った。

 


そんな私をみて『どうしたの?』と怪訝な顔で聞く。

 


なんでもない、と取り繕って旦那は そっか とだけ返した。

 


すると、突然旦那はトイレ用ブラシと洗剤を持ってきて私を押し倒した。

 


そして、私の服を脱がして旦那は『汚いから綺麗にしなきゃね』といって手にしていた洗剤を私にかけてトイレ用ブラシで私の肌をゴシゴシとみがいた。

 


『やめて。汚いよ』

 


あまりの屈辱に私は泣きそうになっていた。

 


そうしたら、旦那は『汚いことしたから綺麗にすることのなにがいけないの』と妖しく笑っていた。

 

 

 

 


ぞくっとした。

 


旦那は、あのメモを読んだんだ。

 


でもだからって、こんなことをしていいと思ってるの。

 


旦那は うるさいな、といって裁縫箱から針と糸を取り出した。

 


針に意図を通して、それを私の口元に縫いつけた。

 


激しい痛みが走ったが、私は叫べなかった。

 


『もう二度とできなくなるようにしなきゃね』

旦那はそういって私の股間を糸で縫いつけた。

 


『これで裁縫は終わったから次は料理しなきゃね』

 


旦那はそういって私の目玉をくり抜いた。

 


私は、もう私じゃなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


今日は、まだ何も食べていなかったな。

 


さて、夕飯を作るとしますか。

 


ちょうど、新鮮なお肉が手に入ったし今日は豪勢にステーキにしよう。

 


ふんふんふーん。

今日は、とっても気分が良くて思わず鼻歌を口ずさむ。

 


逆襲にも気付かずに鼻歌を歌い続ける。

 

 

 

 

 

 

綺麗に骨だけになってしまった妻。

 


僕は、そんな妻を恍惚と眺めていたら。

 

 

 

急に家が燃え上がった。

 


なぜ、急に。

 


階下を見たら、あの男が家を燃やしていた。

 

 

 

僕に気付いて、ものすごい形相で睨んでいた。

 

 

 

ありがとう、と僕は彼に礼をいった。

 


だって、君のおかげで僕は妻と永久のときを過ごせるのだから。

 

 

 

やっと一緒になれたね…

 


誰も助けに来ない燃え上がる部屋の中で君の遺骨を抱きしめながら僕の意識は灰になって燃えてゆく。

 

 

 

 

ゆめかわ☆戦争

 

2020年日本にてゆめかわ戦争勃発。

 


瓶いっぱいにつめられたカラフルなジェリービーンズの大砲。いちごミルクの機関銃から飛び散るいちごミルクに群がる兵士たち。

 


戦争なんていいつつ、まるでおとぎ話のように平和。

 

 

 

 


それもそう。

ここは可愛いものしか存在しない夢の国なのですから。

 


にんげん も砂糖といちごミルクでできているのです。

 


淡いピンクとうっすら薄紫がかかったおそらに浮かぶわたあめの雲。

飴の日には飴がたくさん降るからこの世界では雨の日ではなくて、飴の日です。

 


お砂糖菓子でできたあまくてふわふわした、幻想郷のような。

 


そう、幻想郷のような。

 


だって、この世界にはつらいことも汚いものもないのですから。

 

 

 

老化なんてないし、排泄物もない。

 


働くこともないし、なにも悩むこともない。

 


それらはあまいあまい砂糖になって人間界に送られているので。

 

 

 

 


人間界では、つらくて苦しいことばっかりだった人間たちが『夢の国にいくと、つらいこととおさらばできる』という噂を聞いて いちごミルク味の飴を用意すると、うるう年の夜にユニコーンが現れるから人間たちはユニコーンに乗って夢の国のゲートを開いていきました。

 


二度と人間に戻れないことを知らずに。

 

 

 

 


この世界には死の概念はあるのか?ですか。

 


あるといえばありますね。

この世界では、老化はないといいましたよね?

 


つまり、砂糖やチョコレートになって人間界の工場に送られるのですよ。

 


エコでしょう?

 

 

 

さて、こんな事実を知らずにまた人間たちがやってきましたね。

 


«幻想郷»だと信じ込んで。

 


大丈夫です。もうなにも苦しいことなんてありませんから。

 


なにも考えずに幸せに溶けてくださいね。

 


貴方たちもなんで戦争の真似事をしているか分からない兵士たちのように、なにも考えられなくなりますよ。

 


だって、考えることなんてないのですから。

 

 

 

それが幻想郷なのですから。