鏡よ、鏡この世で一番…

自作の小説の溜まり場

狂愛

 

 

 

 

やっと一緒になれるね…

 


誰も助けに来ない燃え上がる部屋の中で君の遺骨を抱きしめながら僕の意識は灰になって…

 

 

 

僕は君より一個下で僕の猛アプローチの末に君と結ばれた。

 


君は、僕より年上で三十路とは思えないくらい綺麗だった。

 


手入れの行き届いた長い黒髪に縛られるのは僕の特権だ。

 


結婚というのは、契約だろう。

 


僕は君以外見てはいけないし、もちろん君は僕以外を見てはいけない。

 


その契約のもとで僕らは夫婦になったのだろう。

 


君だって、そうだよな。

 


もっとも、君は綺麗だから心配だが。

 

 

 

 


君との結婚生活は、とてもとても穏やかな時間が流れていた。

 


結婚と同時に購入した白亜の家で過ごす君とのなんてことない日常。

 


君が仕事にいっているあいだは僕が家事を担う。

 


中までまっしろな我が家に汚れは似合わない。

 


念入りに綺麗にする。

 


汚れなんてつけさせない。

 


念入りにみがく。

 


我が家に汚れなんて、いらない。

 


さて、次は浴槽の掃除だ。

 


その前に洗面台を綺麗にしないと。

 


洗面台には君の口紅が無造作に散らかっていた。

 

 

 

案外ずぼらなところがあるよね、君は。

 


僕は、ふっと笑いながら君の散らかした口紅を片付ける。

 


片付けていると、メモを見つけた。

怪訝に思いながら、メモを読んだ。

 


それは、君の字じゃなかった。

 


明日の夜7時にホテルに行こう。旦那にはバレないように  と書かれていた。

 

 

 

僕は頭がまっしろになった。

 


それから、ふつふつと怒りがこみあがってきた。

 

 

 

まっしろな我が家に穢れは似合わない。

 

 

 

僕以外の男に身体を許した君を許さない。

 

 

 

 


君は僕だけを見ていたらいい。

 


僕以外の男を見る君なんて、君じゃない。

 


 

 

 

 

 


あれ、おかしいな。

 


昨日  課長…いや修一さんからもらったメモがない。

 


かばんのなかを探しても見つからない。

 


まさか、家に置き忘れた?

 


夫は潔癖症だ。

 


いまごろ 家中を隅々まで掃除をしている。

 


思わず はぁ、と大きな溜息が漏れた。

 


夫のおかげで家は綺麗に保たれているが、あまりにも綺麗過ぎて落ち着かない。

 


部屋なんて、ほどよく散らかっていたほうが落ち着く。

 

 

 

いつしか綺麗過ぎる我が家に帰りたくなくなってきていた頃に我が家と似た境遇の課長とお酒を飲むようになった。

 


課長は奥さんの純粋さに惹かれて結婚したけど、一緒に暮らすうちに純粋過ぎて息苦しくなったらしい。

 


奥さんがあまりに綺麗だから、俺は汚いものだと感じてしまう。

 


だから 家に帰りたくない。

 


課長はお酒を飲みながら、そういった。

 


そんな課長をみて放っておけなかった私は課長を身体で癒すことにこの上ない喜びを感じていた。

 

 

 

そう、私は穢れているの。

 


あなたが思うように綺麗じゃないの。

 


ああ、思い出した。

 


メモは 昨日わざと洗面台に置いたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まっしろな我が家が汚された。それも妻によって!

 

 

 

なんで、そんなことをしたのって君に問い詰めたい。

 


けど、そんなことをしたら綺麗な君が泣いてしまう。

 


僕は君の涙に弱いから。

 


今回は君が悪いんだ。

 


罰を用意しているから馬鹿な君は何も知らずに帰ってきてね。

 

 

 

 

 

 

課長との夜を過ごして憂うつになりながらも綺麗な我が家に帰っていく。

 


我が家の前に立つと、まっしろで綺麗だなって感心する反面 こんな汚れたものが足を踏み入れていいの とも思ってしまう。

 


白は純粋さと正しさ。

 


同時に行き過ぎた純粋さは潔癖さにもなるし、行き過ぎた正しさは押しつけがましさにもなる。

 


だから、ほどよく汚れているほうがいい。

 


ほどよく、まちがっているほうが絶対に正しい。

 


そんなことを考えながら扉を開けたら。

 


旦那は、どこか不気味な笑顔で待っていた。

 


『おかえり。今日も遅かったね』と笑う旦那に仄かな殺意を感じ取った。

 


そんな私をみて『どうしたの?』と怪訝な顔で聞く。

 


なんでもない、と取り繕って旦那は そっか とだけ返した。

 


すると、突然旦那はトイレ用ブラシと洗剤を持ってきて私を押し倒した。

 


そして、私の服を脱がして旦那は『汚いから綺麗にしなきゃね』といって手にしていた洗剤を私にかけてトイレ用ブラシで私の肌をゴシゴシとみがいた。

 


『やめて。汚いよ』

 


あまりの屈辱に私は泣きそうになっていた。

 


そうしたら、旦那は『汚いことしたから綺麗にすることのなにがいけないの』と妖しく笑っていた。

 

 

 

 


ぞくっとした。

 


旦那は、あのメモを読んだんだ。

 


でもだからって、こんなことをしていいと思ってるの。

 


旦那は うるさいな、といって裁縫箱から針と糸を取り出した。

 


針に意図を通して、それを私の口元に縫いつけた。

 


激しい痛みが走ったが、私は叫べなかった。

 


『もう二度とできなくなるようにしなきゃね』

旦那はそういって私の股間を糸で縫いつけた。

 


『これで裁縫は終わったから次は料理しなきゃね』

 


旦那はそういって私の目玉をくり抜いた。

 


私は、もう私じゃなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


今日は、まだ何も食べていなかったな。

 


さて、夕飯を作るとしますか。

 


ちょうど、新鮮なお肉が手に入ったし今日は豪勢にステーキにしよう。

 


ふんふんふーん。

今日は、とっても気分が良くて思わず鼻歌を口ずさむ。

 


逆襲にも気付かずに鼻歌を歌い続ける。

 

 

 

 

 

 

綺麗に骨だけになってしまった妻。

 


僕は、そんな妻を恍惚と眺めていたら。

 

 

 

急に家が燃え上がった。

 


なぜ、急に。

 


階下を見たら、あの男が家を燃やしていた。

 

 

 

僕に気付いて、ものすごい形相で睨んでいた。

 

 

 

ありがとう、と僕は彼に礼をいった。

 


だって、君のおかげで僕は妻と永久のときを過ごせるのだから。

 

 

 

やっと一緒になれたね…

 


誰も助けに来ない燃え上がる部屋の中で君の遺骨を抱きしめながら僕の意識は灰になって燃えてゆく。