鏡よ、鏡この世で一番…

自作の小説の溜まり場

禁じられた遊び

 

 

いつも恒例の女子会は楽しい。

 

けれど、たまに二人の仲の良さを見せつけられて、切なくなるのはなぜだろう。

こないだの女子会は楽しかったはずだ。
なのに、寂しいのはなぜだろう。

…振り返る。

いつもの帰りのバスで友達と放課後遊ぶ約束をしているから手土産のお菓子は何がいいか聞いた。
『お菓子、何がいい?』と私は聞いて有紗は『アイス食べたい。』と返した。

私はスーパーカップのバニラアイスを買ってきて、先に来ていたもう一人の友達である直子が『あれ?私の分はないん?』と聞き返した。

私は慌てて『ごめん、忘れてた!』と謝った。

そうしたら、直子は『まあ、いっか。私と有紗は仲良いから!』と言って屈託ない笑顔で二人でスーパーカップのアイスを同じスプーンで食べていた。

有紗も直子も長年の親友だからかな。


たまに、私の知らない合言葉を使って二人で笑い合っている。

私は、それを見てただ微笑んでいる。

ねえ、私って、ここにいるのかな。

そんな気持ちを隠しながら、なんてことのない時間があっという間に過ぎ去っていく。

じゃあ、またねって手を振りながら私は一人でながいながい帰り道を歩く。

 

もう夕方だったんだ。

夕焼けの空は『今日も頑張ったね。お疲れ様』と優しく慰めてくれている気がする。

アスファルトに咲く蒲公英が『大丈夫だって!』とニカッとした笑顔で励ましてくれている気がする。

夕焼けと蒲公英のほうが有紗と直子よりも、ずっと友達みたい。

 

家に帰ってにゃあにゃあ鳴いている猫にご飯をあげたり、溜まっていた洗濯物を畳みながら、ぼんやりとさっきのことを考える。


こんな上辺だけの友情が欲しかったわけじゃないのにな。


なぜ、仲良いふたりを見ていたら、時折切なくなるのかは分からない。

ただ、私には親友と呼べる友達がいないことだけは分かった。


こんな上辺だけの友情が欲しかったわけじゃないのに、な。

思考が堂々巡りしていく。

噛み合わない理想と現実に苛立ちを覚える。

ふと 、つけっぱなしだったテレビを観たら
夕焼けクインテットが始まっていた。

「夕焼けクインテット」とは、NHPの教育番組でクラシック音楽を人形が演奏しているのだけれど、これがなかなか格調高くて。

テレビをつけるだけでクラシック音楽の演奏を聴けるのだ。

最近 夕方のこの時間に癒されている。

さて、今日のコンサートは何かな。

ふむふむ、今日は「禁じられた遊び」か。

禁じられた遊び」は、たしかスペイン民謡だったかな。
作曲者は不明な謎めいた曲だけど、どこか郷愁感が感じられて聴いていて とても落ち着く。


聴いていたら少し眠たくなってきた。

洗濯物を畳むのをやめて、ゴロンとソファに寝転がった。

微睡みながら懐かしい詩を聴く。


川のそばに きょうも立てば
青い空が ほほえんでいる
青い空は すぎた日々を
みんな 知ってる



川のそばを とおる風は
水の声を 運んでくる
水の声は かえらぬ日を
耳に ささやく

あれは過ぎた 幼い日よ
ふたりだけで 遊んだ日よ
水車だけが まわりながら
それを 見ていた

水は 雲のように流れ
時は かげのようにうつり
思い出だけが いまも深く
胸に とどまる


空はあおく だまっている
雲は遠く 流れていく
行方しれぬ 波のままに
さすらう 少女(おとめ)

水車小屋の 暗いかげで
二人だけの 十字架立て
よろこびに ふるえている
おさなき こころ

やさしかった 名をば呼びて
追えどむなし 霧の面影
引きさかれし 愛の歌を
たれか 歌わん


春はめぐり 花はひらき
鳥はうたう 旅の空を
雲の如く さすらいゆく
あわれ おさなご

十字架たてて 花をかざり
二人きりで 遊んだ日の
忘れられぬ あの思い出
胸に ひそめて

楽しかりし あの日のこと
やさしかりし 母の瞳
今は遠く すべて去りぬ
ゆめの うきぐも



いつか、いまの悩みすらも思い出になるのだろうな。

苦しみも喜びも、ぜんぶ、懐かしく思い出せたら、しあわせな、気がする。

ぼんやりと霧のかかった森のように、今すらもそうなってしまえばいい。

ああ、かんがえごとをしていたらほんとうに寝てしまいそう。

いいや、いまだけ寝かせて。

おやすみ、今日の私。
明日は綺麗な私に生まれ変わっていますように。


そういいながら彼女は深く眠った。

ピロン、ピロンと鳴き続けるスマホにすら気づかずに。